財団法人日本ナショナルトラストからのメッセージ
栄華をしのばせる門司レトロ街づくり
石井幸孝
戦前、明治・大正・昭和を通じて、門司はわが国と大陸とを結ぶ貿易、金融、交通の拠点であり、九州と本州を桔ぶ接点だった。日銀の門司支店が東京本店、大阪支店の次にできた一事でもうなづける。今ではすっかりその機能が低下してしまったが、かつての華麗なる建物が点々と残り、また関門海峡やそれをはさむ山々のたたずまいも美しく、レトロ街づくりがここ十年来進んでいる。
なかでもJRの門司港訳(旧門司訳)は、使用中の鉄道駅としては唯一の国の重要文化財だ。関門トンネルができる昭和十七年までは門司駅で、まさに起点の門司駅だった。大正三年完成で、すでに八十星霜をこえている。この駅は現在も現役として活躍しており、文化財の指定書には「建物内外のデザインは、ネオ・ルネッサンス風を基調として特に意をそそいでおり、二階に貴賓室を設けるなど、高い格式と風格をもっている。建物全般にわたって建築当初の形式をよく伝えており、わが国の近代化が進行中の時期の駅舎建築を知るうえで貴重である。」とある。当時の面かげは行き止りのホーム、独特の手洗所、トイレにまで残っている。
駅を中心に旧門司三井倶楽部(大正十年完成の社交クラブ的建物、元国鉄会館)、大阪商船ビル(大正六年)、郵船ビル、門司相関などがあるほか、明治三十五年に大連にできたドイツ風建築物を模したユニークな記念図書館も完成した。また山手には明治二十四年にかつての九州鉄道本社の建物としてつくられた、赤レンガ二階が異風をはなっている。
道路やはね橋、ウォーターフロントも整備され、逐年訪問客がレトロ地区にふえている。これから二期目の整備が計画され、鉄道記念館なども考えていくことになっている。
ソフト面やエンターティメントなどの肉づけをして、しかも住や商もふくめた生きた街としても活性化することが期待されている。欧州なども見習って、これから古い文化の香りのする街づくりの再生、維持に住民、行政、企業そして日本ナショナルトラストのような団体が総力を糾合できる方向にしたいものだ。<(財)日本ナショナルトラスト評議員>
自然と文化54号
特集=隠れキリシタンと鯨[生月島の西海文化]
編集=(財)日本ナショナルトラスト 発行=(社)日本観光協会
1997年3月7日発行 東京都千代田区丸の内1-8-3 国際観光会館内 〒100
電話03-3211-1595
印刷=日本写真印刷株式会社
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